木々のささやき 344号

親を大切にする

 「人間も動物も自分の産んだ子を大切に育てるけれど、育った子が親を大切にするのは、人間だけである」という話を聞いたことがあります。

 親を大切にするというのは、どういうことかを考えてみました。一つは、親に感謝するということだと思います。「いま、ここ」にある命を授けてくれ、ここまで育てていただいたことに感謝するということです。もう一つは、親に心配をかけないということです。何より自分を含めた家族が健康で、日々元気に仲睦まじく暮らしていることを知らせることです。せめて自分の誕生日には、家族そろって両親のもとを訪ね、元気な顔を見せることが一番だと思います。さらに「精神的自立」や「経済的自立」をはかることも大切だと思います。

 私の場合、両親はすでに他界していますが、両親の命日や私の誕生日には「父母恩重経」を唱えることで、さまざまな受けた恩徳を思い出しながら感謝の気持ちを伝えるようにしています。

 今回は父母の「十種の恩徳」のうち「嚥苦吐甘(えんくとかん)の恩」と「廻乾就湿(かいかんじゅしつ)の恩」について思い出してみたいと思います。

 「嚥苦吐甘の恩」とは親は苦くまずいものを食べ、甘くおいしいものを子に与えるという恩をいいますが、私にはこんなことがありました。食事の時に母が自分によそうご飯やおかずは残り物ですませようとしていました。しかし、私たち子どもには炊き立てのアツアツのごはんや、つくり立ての食べやすいおかずを食卓に並べてくれていました。魚は、母親は骨の多い食べにくいところを食べ、私たち子どもには、骨の少ない身の多い食べやすいところをまわしてくれていました。場合によっては私たち子供が食べすぎるあまり、母は口にするのが少なくなってしまったこともあったようです。

 「廻乾就湿の恩」とは、子のために乾いた場所を譲り、自らは湿ったところに寝てくれた恩をいいますが、小学生の時、両親と一緒に寝ていました。私が寒い夜中トイレに行って冷えた体を温めてくれるように母は自分の布団のあたたかいところに私を導いてくれ、母は冷たいところに身を寄せていました。母のそのような温もりは私の身体と心をあたためてくれました。ありがたいことだと思います。

 私はこのような親からの恩に感謝し、今度は次世代にこうした恩を送っていきたいと思っています。それが私にとっての”親を大切にする”ということになると思っています。

 

2019年9月 344号より 芳野 栄