木々のささやき 343号

「声かけ」は「肥(こえ)かけ」

 以前、”「声かけ」は「肥(こえ)かけ」です”という話を聴いたことがあります。その意味するところは、社員を正しく成長に導くには、作物に肥(肥料)を施し、成長を促すのと同じように適切な「声かけ」が必要ですというものでした。

 社長を退いた現在の私の関心事は、社員に対する”声かけ”です。私の声かけによって、社員が魅力的で周囲の人に好かれる人物に成長していただけたらと思っています。同時に技能の向上が図られることを願っています。人としての成長と専門分野での成長を図ることで、幸せな人生を送って欲しいと願っています。

 そこで社員の朝一番のあいさつや、仕事中の社員の表情や動作を静かに観察し、心の内を感じるように努めています。体の調子は悪くないか、どういう心の状態で仕事をしているだろうか、困った事やイライラするような事はないか等々。社員の変化をいち速く察知し、気づいたらそうした体調やイライラの種や悩みが解消できるよう声かけをするようにしています。その時、私が気をつけていることが二つあります。その一つは、声かけするときの私の心の状態が穏やかであるか否かです。心が穏やかでないと、相手の気持ちを和ませたり勇気を与えたり、自信につながるような声かけができないからです。また、言い過ぎたり、言い足りなかったりしてせっかくの声かけが、効果のないものになってしまいます。もう一つ気をつけているのは、「正しく、やさしいことば」で声かけするという事です。「正しく」とは相手の気持ちを和ませたり、勇気や自信を与えるような内容をさします。また「やさしい」とは声かけするときの口調を言います。声かけするときには、この二つのことを意識しておこなっています。

 例えば、忙しさのあまり、焦点が定まらない表情のスタッフを見れば「焦らないでいいよ、一度ゆっくり深呼吸をして」と声かけ、同時に少し手に余裕のある他のスタッフの応援を求めてあげる。そのことで表情は少し和らいできます。また、技術の未熟な人が苦労していれば、作り方のコツを伝えてあげる。そうしたことで次第に苦手意識が薄らぎ、品質の向上や生産性の向上につながっていきます。

 素心学塾の池田繁美先生は「人を導くのに、きびしさは必要ありません。やさしさだけでいいのです」とおっしゃいます。私もそこをめざして社員の幸せを願いながらこれからも声かけを継続していこうと思っています。

 

 

2019年8月 343号より 芳野 栄