木々のささやき 322号

”屋久杉”の教え

 今年の慰安旅行は”屋久島の縄文杉を見よう”ということで去る十月十五日~十七日で実施いたしました。

 ”屋久杉”とは屋久島の杉の中でも樹齢千年以上の杉に与えられた名称だそうです。千年という時の経過に耐え、まっすぐに成長した杉は、どっしりとしていて貫禄があり、私たちを魅了してくれました。”屋久杉”を目の当たりにすると屋久杉がさまざまなことを語りかけてくれているようでした。

 その一つは、永続することの大切さです。千年以上にわたって成長し続けた杉が”屋久杉”と呼ばれるように、企業の経営においても”老舗”と呼ばれるように企業の永続をはかっていくことが大切ということです。急成長を戒め、一年一年確かな年輪を刻んでいくことが、地域社会に役立つ企業に成長していくことに他なりません。

 二つ目は、根を張ることの大切さです。屋久島は、花崗岩でできた島です。従って土壌は痩せ、栄養分が少ない中での成長を余儀なくされています。そこで杉の根は、岩場から長く伸び、地中深く根を張り、そのことで風雨に強い杉へと成長をとげています。与えられたきびしい環境を受け入れ、その環境の中で成長していく力強さが伝わってきました。そこにしっかりと「根を張る経営」の大切さを学びました。経営理念、社風人としての魅力や思いやりなど、木に例えるなら根っ子の部分をしっかり充実させていくことで、環境変化に柔軟な企業風土ができあがるものと思います。花崗岩の土壌という過酷な条件の中でこそ、急成長しない密な年輪を形成し、そのことで付加価値の高い杉材となっています。企業経営の環境がきびしくても、自社の良さを失わず、むしろ自社の特徴や強みを生かした経営が求められるとも思えました。

 次に感じたのは、共生していくことが大切ということです。屋久杉を伐採したあとの切り株からは、その断面から新しい木が成長しています。他の木々の種の着生をも受け入れ、自ら根からの養分を与え、新しい木からは光合成による恩恵をいただき共生しています。自然界では、「自分さえよければ」という概念はないように思いました。私たちも自分の持つ能力を生かしながら、周囲の人々とともに仲良く生きていくことや自然とうまく調和していくことが正しい生き方であると示してくれているようでした。パン屋の仲間同士も「自分の店だけよかったら」と考えるのではなく、いろいろなことをともに学び、ともに成長して、全体のレベルを高めていくことで業界全体を押し上げていくことができるのだと思いました。他社と競合しあうより協調しながら自社の得意分野を大切にしていくことのほうが、企業の永続には欠かせないと思いました。

 雨が降り、条件の悪い中での縄文杉の見学ツアーでしたが、その中でも得ることの多い記憶に残る慰安旅行となりました。

 

2017年11月 322号より 芳野 栄