木々のささやき 290号

立居振舞を美しく

「製パン技術選手権大会、第二回ベーカリージャパンカップ農林水産大臣賞は、株式会社木輪の・・・」のあとに弊社社員の名前が告げられました。その瞬間「やった」といううれしさで胸がいっぱいになりました。「よく頑張ってくれた」という感謝の気持ちと、ねぎらいの気持ちで胸が熱くなりました。休日も返上して早朝から練習を続けてきた成果がきちんとあらわれたようです。

 今回の競技会を通して感じたことは、選手達の「立居振舞の美しさ」でした。立居振舞の美しさは、競技を見ている審査員はじめ多くの人に安心と喜びを与えることができるということです。その立居振舞が、つくり出す作品をより一層美しく、立派なものにしていたように思いました。立居振舞の美しさとは、競技に無心に取り組んでいる姿勢であり、作業姿勢そのものです。腰骨を立てて、スクッと立ち、堂々とした態度で臨んでいました。少しもあわてたところはありません。動作もリズミカルで無駄がありません。調った呼吸で、その息づかいも心地よく伝わってきます。審査員の質問にも、丁寧にきちんと、ハキハキと受け答えしていることにも美しさを感じました。ハキハキ、キビキビ、テンポよく、これが「立居振舞の美しさ」を生んでいるようでした。

 パンを造ることと共に大きく評価されるのがプレゼンテーションです。プレゼンテーションでは、選手の作品に対する想いを語りますが、その表情や語調、態度も評価されるのでしょう。その様子を見ている審査員や私達に安心を与えてくれたのが、選手の「立居振舞の美しさ」でした。表情や語り口調が審査員に心地よさを与えているのか、また挨拶や態度、動作が一流をめざすベーカーマンにふさわしいのか、そうしたところにも美しさが求められているようでした。

 さて、「立居振舞の美しさ」は、その人の持つ雰囲としてあらわれ、こうした競技会においても大変重要であり、結果に及ぼす影響は、とても大きなものがあります。しかし、こればかりは一朝一夕に身につくものではありません。日頃から素直な心を身につける努力をし、自分自身を律し、人格を高めておかないと良好な雰囲気を醸し出すことはできないでしょう。同時に、周囲の人に不快さを与えない、安心と喜びを与えるという思いやりの心を実践していくことが大切です。不快さを与えない気くばりや心くばりが日頃からできているかということです。

 審査員のそれぞれの選手の作品に対する評価はとてもすばらしく、できばえや味の評価において甲乙つけがたいようでした。その中から優勝を決めるにあたって評価されたのが、評価がむずかしいものの、確かにある選手一人ひとりから醸し出される雰囲気、つまり「立居振舞の美しさ」ではなかったかと思いました。一流のベーカーマンになるには、製パン技術のみならず魅力的で周囲の人から好かれる人間性も持ち合わせるべく努力することの重要性を改めて感じました。

 弊社の社員には、謙虚にして驕(おご)らずさらに努力を続け、立派な技術者に成長すると同時に立派な経営者をめざし、より一層成長して欲しいと心から念じた次第です。

 

2015年3月 第290号より 芳野 栄