木々のささやき 294号

「知・徳を兼備する」

 素心学(池田繁美先生)では、人格を形成していくためには、知・徳を兼備することが大切と学んでいます。つまり、魅力的で人から好かれる人物になるには、知(専門的知識・教養的知識)と徳(人間の徳性・思いやり)の両方を身につけることが大切ということです。

 先日おこなわれた、第二十四回カリフォルニアレーズンベーカリー新商品コンテストで、弊社社員が特別賞を受賞いたしました。二月におこなわれた第二回ベーカリージャパンカップにおいて、農林水産大臣賞受賞につづいての受賞です。パン造りの専門的知識や技術・技能が評価されたのは、大変ありがたいことです。しかし、これだけでは一流とは言えません。これからは、人間の徳性(思いやりの心)を身につけていくことが大切となってきます。

 受賞したスタッフは、こうした賞をいただけるようになるまでに、修業時代を含め七年間かかりました。ここに至るまでに技術や技能の修得に相当の努力をされたのでしょう。その努力に敬意を表します。さらに望むことは、そのように努力して身につけたパン造りの技術や技能を正しく生かすために、人間の徳性を身につけて欲しいということです。例えば、パン造りの技術・技能があるからといって、自分のつくりたいパンばかりをつくって、お客様の要望に耳を傾けなかったり、「自分の造るパンは絶対においしい」とお客様の声を無視したりと謙虚さを失うようなことがあると、お客様は、次第に遠ざかっていきます。また、職場でも自分のわがままな思いや考えを押し通そうとすると、これまで協力してくれていたスタッフの協力も得られなくなります。結果的に、せっかく身につけたパン造りの高い技術や技能は生かせなくなってしまいます。

 高い技術や技能を身につけていけばいくほど謙虚さを失い、うまく立ちゆかなくなったパン屋さんをこれまでずいぶん見てきました。彼らに共通しているのは、時間に遅れだす(機敏さに欠ける。マイペース)。約束を自分の方から破り出す(人との約束をいい加減なものとして扱う)。挨拶が雑になり出す。(自分が偉くなったとでも思っているのでしょう)。言い訳が多くなる(自分は正しいと思い込むとそうなる)。他人の話を上調子で聞き出す(自分のことばかり考えていると、人の話は耳に届きません)人の批判や会社の批判をしだす。(自分がうまくいかないことを人や会社のせいにし批判します)。理論派になりだす(本当のところを理解していますか、屁理屈になっていませんか)などなど

 人間の徳性は、すばらしい技術・技能を正しく生かすためには欠かせません。目に見え、形にあらわれやすい技術や技能。それに比べ、目に見えなくて、表にあらわれにくく、身につきにくい人間の徳性。だからこそ、大切にしなければなりません。コツコツと地道に取り組む以外はありません。

 専門的技術・技能の花が少しずつ開きはじめました。今こそ改めて、人間の徳性も身につけ、知・徳を兼備した一流の人間に、ベーカーマンに、そして同時に経営者へと成長して欲しいと願っています。

 

2015年7月 第294号より 芳野 栄