木々のささやき 325号

師の恩

 先月、小学校時代の恩師が八十八年の人生を全うし旅立たれました。私たちに多くの良い影響を与えて下さった恩師の別れに、同窓生が九名も集まりました。遠くは、神戸から駆けつけた同窓生もいて、卒業後五十四年経過したにもかかわらず衰えない恩師の魅力の偉大さを感じました。

 通夜に臨み、小学四年生から六年生までの三年間のことを思い出しました。四年生の一学期、給食着を忘れ、私と兄がそれを取り合いし争っていたことを私の母に懇談会の席で伝え、そのことで父親に叱かられた思い出がよみがえってきました。「兄弟仲よく」の原点がここにあります。また珠算の時間に、できの悪い私たち兄弟を教壇のところに呼び、特別指導をしていただきました。できの悪い人を見放すのではなく、何とかしてあげようと、とことん付き合ってくださいました。他に印象深い指導は、「漢字」を正しく理解させようと努力されていたことです。毎日漢字練習が宿題でした。友人同士の言いあらそいやケンカがあると,"両成敗”で「漢字百字」が課せられていました。また、漢字の筆順についてもとても熱心に指導して下さいました。そのおかげで、現在でも漢字を正しく書くうえで大変役に立っています。何より私たちにとって一番の財産は、私たちクラスの皆を明るく、仲よく元気よく、思いやりのある人間になるよう指導していただいたことだと思っています。通夜に集まった同窓生は、現在でも年に数回集まり、近況報告をしあっています。通夜に参例した同窓生の一人が「先生の指導のおかげで私たちは、こんなに幸せに年を重ねることができているなあ。ありがたいことだ」と口にしましたが、全員がそのように思ったことでしょう。年を重ねても受けた指導の大きさを実感できるほどのすばらしい指導をして下さったということです。こうした、あたたかい指導の数々を私たちはそれぞれの家庭で次世代の人にも伝えていかなければならないと思いました。そのことが恩師に対する恩返しにもなるでしょう。笑顔でほほえんでいらっしゃる恩師の遺影に手を合わせると「私から学んだことを活かし、幸福な人生を送ってね」と語りかけられているようでした。

 三年間という短いお付き合いの中で一生通用する大切なことをご指導いただいたように思います。私も経営者として二十名近くの社員と接していますが、そうした日々の中で恩師のように彼らにとって一生通用するものを伝えていくことができるよう、また幸福な人生を送る手助けとなれるよう、努力しなければいけないと思いました。

先生、「ありがとうございました。」

 

 

2018年2月 325号より 芳野 栄