木々のささやき 302号

まず 一歩を踏み出そう

 先日おこなわれた、素心学塾(池田繁美塾長)の勉強会で素心学正講師の松岡秀男さんから次のような発表がありました。

昨年の九月に引き続き、「萩往還」と呼ばれる萩から山口を経て防府へ至る53kmのうち、今回は山口から防府までの19kmの自然行をおこないました。昨年の九月は、暖かな気候で緑色濃い山道を歩きましたが、今回は敢て一年でも寒さの一番きびしい、二十四節気の「大寒」の日(一月二十一日)を選んで、山合いの雪の中の自然行を実践いたしました。寒さきびしい中を歩くことでこれまでと違う何かが体感できるのではないかという思いからその日を選びました。・・・(以下略)

 この体験発表を目を閉じて聴いていますと、話の様子から一面の雪の寒い中を無心に歩く松岡さんの様子が一枚の絵のように目の前に広がってまいりました。寒さきびしい中での自然行を通してこれまでと違う何かが体感できるのではと一歩を踏み出された、その精神力の強さと身体の強靭さに頭が下がる思いがしました。

 体験したことのない、新しい世界に一歩踏み出そうとするには、大変な勇気と行動力が必要です。今回の松岡さんの場合も、場合によっては、環境の悪さから体にダメージが加わり、途中でコンディションをくずすということもあるかもしれません。しかし、松岡さんは、そんな不安よりも、是非ともチャレンジし新しく何かを体感、体得したいという思いがまさっていたのでしょう。これまでの日頃からの自然行が充分になされている上でのことでしょう。一歩踏みだすかを迷うより、とにかくまず一歩を踏み出し、行動してみることの大切さを学びました。

 むずかしいことでも行動することで必ず何らかの結果がでるものです。ともするとむずかしいこと、さらにそれが体を動かすことを伴う場合、頭であれこれ考え、「無理だな」とか「多分こうだろう」と頭の中で結果を出してしまい、行動を起こすことをためらいがちになります。これでは何の結果も出ません。松岡さんは、あえて寒さきびしい中に飛び込み実践された結果、ご自身がご高齢であるにもかかわらず健康であることのありがたさを実感され、自分というのは、大自然の分身であることに得心され、さらに雪上での禅的瞑想でも、自然との一体感を体得されたということです。

 松岡さんの勇気と行動、そして体感されたことは全て本物だと思います。私も正しい思いに従った行動を勇気をもって一歩を踏みだそうと思います。

 

2016年3月 第302号より 芳野 栄