3月で社長を退き、1年が経過しました。思い返してみると、さまざまな問題や苦悩の連続でしたが、むしろそのことで、経営者になる前の自分に比べて多少なりとも人として鍛えられたかなと思っています。
以前素心学塾塾長の池田繁美先生から”彼岸の意味”(月刊素心第81号)の説明で、彼岸に渡るための実践項目として”布施(ふせ)”、”持戒(じかい)”、”忍辱(にんにく)”、”精進(しょうじん)”、“禅定(ぜんじょう)”、”智慧(ちえ)”という話をお聴きしました。これらの六項目を心がけ行動に移すことで、他者への思いやりや自我に執着することのない人間性を養うことができるということでした。経営者として、仕事を通じてそれぞれの項目にどのように向き合ってきたかを述べてみたいと思います。
一番目は”布施”。他者への思いやりととらえました。「笑顔であいさつ」や「正しくやさしい言葉づかい」の実践がこれに当たります。社員に対して不快さを与えない、安心と喜びを与える実践です。思いやりの実践を通して良い社風づくりを目ざしてきました。(和顔、愛語)
次が”持戒”。経営者として社員との約束や社内の規則は率先して守ることはもちろん、社会規範を意識し、地域社会から信頼を得られるよう努めてきました。(約束、規則は必ず守る)
三番目が”忍辱”です。自分の思うようにはいかないことが多く、数々の問題と向かい合いながらの日々でした。じたばたせず、対策を立てた後はじっと辛抱することの大切さを学びました。(忍耐)
四番目は、”精進”。一生懸命努力する(働く)ということです。当然のことですが、会社の中の誰にも負けない努力をしました。努力することの大切さを行動指針の中で”常に向上心を持って日々努力”という言葉にして大切にしてきました。(努力)
五番目は、”禅定”です。一日の終わりは静かに反省です。私の場合15分の禅的瞑想のあと、一日を心静かに振り返ることを日課としてきました。心が揺れを動く毎日の中で、呼吸を調え心を調える時間が必要でした。(禅的瞑想)
最後が”智慧”です。正しく生きるための智慧のことです。上の一番目から五番目までを繰り返すことで体得されるとされていますが、素心学を学び、素直な心を身につけていくことでも正しく生きるための知恵が発現されるとされています。経営していく上で正しい判断、正しい行動が求められます。素心学を学ぶと同様に、五つの実践項目を実践することが大切とわかりました。
このように、仕事を通じて人間性を磨くことができるということを再確認できました。
2019年5月 340号より 芳野 栄