朝少しずつ明るくなるのが早まってきました。厳しい寒さから一変、春の兆しがあちこちで見られるようになり、チューリップの芽が刻々と背を伸ばしています。きれいな花が咲き始める時をもうしばらく楽しみにしたいと思います。
このチューリップの芽もそうですが、厳しい寒さの中、雪や風にさらされ耐え忍んで開花を迎えることでしょう。今月は『忍耐』ということについてふれてみたいと思います。『忍耐』とは、思うようにならないことを、じっと辛抱することです。よく似た言葉に「我慢」とありますが、その違いは現状を受け入れられるかにあるようです。例えば寒い日に「我慢」するのは、「早く暖かいところへ逃れたい」というストレスを抱えている状況、「忍耐」は「冬の風が冷たいのは当然だ」とその寒いつらい状況を受け入れ、グッと耐え忍ぶことで、同じ「寒さ」という事実はありますが、その事実の捉え方に違いがあるということではないでしょうか。
私も振り返ってみますと、大きな壁に何度もぶち当たり、つらい苦しい状況を乗り越えて、そして少しずつ改善され、喜びに変わっていくということをくり返しているような気がいたします。
パン屋の修業先では、脱サラしてからその道に入ったため、専門学校を卒業して入社した10才も年下の人が私の先輩でした。私は元来不器用でしたので、何をやっても失敗するし、なかなかできない、「そんなことも知らないの」と年下の先輩から言われることもあり、屈辱的な毎日でした。とても悔しい思いをしていました。自信を失うこともたくさんありました。しかし、家族を養い、これから木輪を背負っていくためには落ち込んでいる場合ではないと思い耐えてきました。自信をつけるために、師匠から紹介いただいた技術書一冊を手アカで黒くなるほど何度も読み返し、実際の現場でその状況を確認し、師匠へ質問してきました。そして、修業先での毎日のパン造りがひと通りできるようになったら、コンテストにチャレンジし、新商品を開発することに磨きをかけました。修業先を卒業して、木輪に戻ってからも「不器用だなぁ」と自覚していたので、研鑽を積み重ねていきました。そして、コンテスト落選を十数回くり返し、たまたま書類選考を通過したのが”ベーカリージャパンカップ”でした。やっと誰かに認めてもらえたような気がしましたが、ここにたどり着くまでに約8年かかりました。
悔しい、屈辱的な現状から目をそらさず、腐らずに、ただ腕を磨くことだけに集中してきたことで一つ壁を乗り越えられたのだと思います。これからも、幾度となく悩み苦しみは出てくることでしょう。その辛抱ならない状況に不平不満を言うのではなく、グッと耐え、改善に全エネルギーを注ぐという気持ちで忍耐力を養いたいと思います。