まもなく冬小麦(冬に種をまいて初夏に収穫)の収穫をむかえる時期となります。福岡県は北海道に次いで全国第2位の小麦の生産地です。この時期、黄金色に染まった小麦畑の風景をたくさん見ることができます。私たちも5月末に麦刈りに行ってきました。これからも、一生懸命育ててくれた生産者の想いをパンに込めてお届けしたいと思います。
私のコックコートの胸ポケットにはいつも手帳を入れています。その手帳に、あるお客様からいただいたメモを挟んでいます。そして、そのメモを見返すたびに励まされ、勇気をもらっています。
そのメモには「周りがパリッ、中がフワッ、毎日食べても飽きないし、”窯出しトースト”さえあれば何もなくても生きていけます。」と書いてあります。
5年ほど前、そのお客様から「最近の”窯出しトースト”はおいしくない」と言われたことがありました。ちょうど先代から社長を引き継いだばかりでした。先代のころから材料、工程、生地の状態など何も変えずやっているのに、どうしてもパリっと窯伸びした山形食パンが焼けなかったのです。その間、首を横に振り残念そうなそのお客様の表情を見てきました。「もう来店していただけないのではないか」と不安になるときもありました。毎日のように試行錯誤し、ようやく納得のいくパリっと窯伸びした”窯出しトースト”が焼けるようになりました。
そして、昨年そのお客様からいただいたメモをスタッフから受け取ったときには、心の底から「パン屋をやってよかった」と喜びがフツフツとわいてきました。大げさかもしれませんが、その方の「幸せや喜びに貢献できているのではないか」と思えたことがとても嬉しかったのです。
本誌第54号でもご紹介しましたが、私が子供のときに両親が朝早くから夜遅くまで働く姿を見て、「パン屋って大変だなぁ」「ぼくにはできない仕事だなぁ」とパン屋という職業の裏側だけ見ていたことを思い出します。
ところが、今では「パン屋は周囲の様々な人を幸せにできる素晴らしい仕事だ」と誇らしく思うようになりました。もちろん、つらいことや悩みは尽きませんが、この素晴らしい仕事に全精力を注ごうと心から思うようになりました。
さらに、お客様だけでなく一緒に働くスタッフとその家族、取引のある関係会社、近隣の地域社会からも「木輪があってよかった」と喜んでもらえる存在になることを目指して、今やるべきことをコツコツと積み重ねていきたいと思います。