“ルヴァンの声”とは(2)

  1.  今月はタイトルにもなっています“ルヴァンの声”についてお話しさせていただきます。

木輪では、先月もご紹介させていただきましたが、軽く口どけのよい食感となるイースト、風味や香りが豊かな自家培養の酵母種(ルヴァン、ライサワー種、レーズン種など)とそれぞれの特徴を生かしたおいしいパンができるよう工夫しております。

 私が自前でルヴァンを造ったきっかけは、2015年のベーカリージャパンカップ(国内産の小麦粉を使ったパンの技術選手権)に出場する際に福岡県産の小麦の特徴を生かした食パンを造ろうと思ったことが始まりでした。福岡県は全国で第2位の小麦の生産地です。その福岡県でパン屋を営む者として福岡県の小麦のおいしさを伝えるのは使命のような気がしたからです。ルヴァンを造るにあたって必要な材料は小麦粉と水のみです。小麦粉に付着したパン酵母と乳酸菌を育てる環境をととのえていきます。温度と発酵時間、種の固さ(小麦粉と水混ぜる割合)を調整することで酵母数や菌数は増えてきます。毎日のように種をかけ継いで(種に小麦粉と水を加える)ことで次第にブクブクと泡が出てきて膨らみを見せるようになり、マイルドなほんのり甘い香りと、口に含むとすっきりした酸味が出てきます。「種は生きているなぁ」と感動する瞬間です。 福岡県産の小麦でパン用に向いているのは「ミナミノカオリ」という品種です。このミナミノカオリの特徴を生かすために、ルヴァンを使い、ほんのりとした甘い香りとすっきりとしたキレのある酸味が感じられる食パンを造ろうと思ったのです。

 パンに使われる材料は小麦粉や水、パン酵母(イースト、ルヴァン種)の他、砂糖、塩、卵、乳製品(牛乳、生クリームなど)、油脂(バター、マーガリンなど)...と個性の強い材料ばかりです。これらを極力使わず、ルヴァン種のやさしい風味や香りを生かすことを考えました。

 この食パンを造る上で一番大切なのは、生きているルヴァンがどのような状態であるかということです。それによって、全てが決まってきます。ところがパン酵母や乳酸菌は肉眼では見えませんので、それらのよしあしを決めるのは、「私自身がルヴァンの声を聞く」こととなります。よくその膨張具合、香り、味、温度、種の固さなどの状態を見て判断することです。そこに私の我欲や都合を挟みこむことは許されないということです。

 このように、これから私が木輪を経営していく中で、自分の我欲や都合を挟まずにルヴァンの声を聞くがごとく、お客様や地域の方々、共に働くスタッフ、様々な周囲環境に耳を傾け、丁寧に謙虚に思いやりを持って接していくことが求められると思います。本紙もその一助となるように願い、書き綴ってまいりたいと思います。