木々のささやき 358号

創作・真心・感謝 (1)

  「創作」「真心」「感謝」は私がこれまで大切にしてきた言葉です。創業間もない頃、パン造りのできなかった私は、この三つの言葉を信じ、この言葉だけを頼りに経営してきました。それだけに、三つの言葉に深い思い入れがあります。

 この三つの言葉は、私の修業時代に修業先の店主(Hさん)から学んだものです。Hさんは修業の二年間、パン造りを教えるというより、これからパン屋を経営していく上で大切なことを指導してくださいました。

 創作…人マネをせず自分で考え工夫して他店にない商品をつくる。

 真心…誠実に心を込めて一所懸命パン造りや販売をおこなう。

 感謝…買って頂いたお客様や周囲の人に感謝する

というものでした。Hさんは次のように私に話してくださいました。

 二年という修業期間では、とても他のパン屋さんと肩を並べることは無理だ。しかし、他のパン屋さんのマネをしなければ、いつも日本一になれる要素があるというものです。

 そこで私は、製パン技術が超未熟ながらも他店にないパンを目ざしスタートしました。形もとらわれず独自色を出す。例えば食パンも創業当時は四角のパンしか市場にはありませんでした。「丸い食パンがあってもいいのでは?」と思い、丸型食パンをつくることにしました。「誰が食パンは四角と決めたの?」とあえて現状にとらわれない発想を重視していました。現在は数多くのお店で丸型のパンを見ますが、今から33年前は他店にはない形でした。

パンのことを知らなかった“おかげ”で、自由な発想や現状にとらわれない考え方を大切にすることができたと思っています。創造性を高めるために、修業時代パン屋さんの見学よりも、和菓子屋さんや洋菓子屋さんのお店をよく見てまわり、「こうした商品をパンで造ったらどうなるんだろう?」という風に考えながらまた季節感を意識しながら考察を繰り返しました。その他、現在はもう造っていませんが、木輪オリジナルのクリームパンは、夜店にあるヨーヨーをイメージした形で自家製のクリームを使用して作っていました。さらに自家製材料を使用することでも、オリジナル性を大切に考えてきました。

 ところが、全てにおいて未熟な私のやることです。創作してもそうしたパンは、なかなかお客様に受け入れてもらえません。ですから、そこから新たにお客様に受け入れてもらえるように製造や販売において工夫と改善を実践していくことが求められました。私の造るパンは、新商品として店頭に並べても、まず売れませんでした。ですから全てのパンは売れないところからのスタートとなってしまっていました。売れなくて当たり前。そこからどう売れるようにしていくかが、仕事上でのたのしみとなっていきました。この“木々のささやき”もそのような中で売れる商品にするための工夫の一つとして書きはじめたものです。

 その他、他店にないこと意識したのは商品のネーミングでした。自分の子どもに名前を付けるのと同じように、将来のこの商品の行く末を願って、かわいい商品一つひとつに思いを込めてネーミングしていきました。“大樹、きりかぶ、やまなみ、幹、あすなろ、”等々。

 他にもいろいろと独自性を持たさせるために取り組んできたことがありますが、それらを私は“創作”という思いで続けてきました。

 

2020年11月 358号より 芳野 栄